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最高裁判所第一小法廷 昭和23年(れ)904号 判決 1948年12月16日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役四月及び罰金参萬圓に處する。

右罰金を完納することができないときは、金百圓を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

辯護人渡辺里樹上告趣意について。

執行猶豫の言渡は原審が所論その他諸般の情状に照しこれが言渡をすることが刑の一般豫防の目的を害せず、却て、その特別豫防の目的を達成するに適するか否かを職務上自由に裁量して決定すべき任意事項であるから、原審がこれを言渡さなかったからとて、もとより違法であるといえない。また、證人申請の採否も原審の自由裁量に屬すること言うまでもないから、原審がこれを採用しなかったからとて、憲法第三七條第一項の公平な裁判所の裁判を受ける權利を害するものといえないこと竝びに同條第二項後段に違反するものでないこといずれも當裁判所の判例の趣旨とするところである(前者につき昭和二二年(れ)第二五三號同二三年七月一四日言渡大法廷判決、後者につき同二二年(れ)第二三〇號同二三年七月二九日言渡大法廷判決各参照)。なお、刑訴第四一〇條第一三號にいわゆる「法律ニ依リ公判ニ於テ取調フヘキ證據」とは、刑訴第三四二條に規定するがごとき法律上必ず取調を要すべき證據をいうものであるから、所論第一點で言うような公判廷で申請した證人若しくは所論第二點で主張するような参考として辯護人から原審に提出した證明書、診斷書、歎願書及びレントゲン脊髄カリエス寫真のようなものは、いずれもこれに當るものとはいえない。それ故原審判決には、所論第一、二點でいうような違法はない。

しかし、職權を以て調査するに、原判決は、その法律適用において、被告人の所爲をば、昭和二一年勅令第三一一號第四條第一項、第一條第四號、一九四七年六月二七日連合国最高司令官の刑事裁判權の行使に關する覺書改正の件に該當するものとしたが、右第一條第四號は我が国の刑事裁判權に屬する事件に適用のない規定であるのみならず、右覺書改正の件に基く昭和二二年政令第一六六號によって削除せられたものであるから、かゝる法令を適用したのは法令を不當に適用した違法があるものといわざるを得ない。從って本件上告は、この點において結局理由あるに歸し、原判決は破棄を免れない。

よって刑訴第四四七條第四四八條に從い原判決を破棄し被告事件につき更に判決を爲すに、原判決の確定した被告人の所爲は、昭和二一年勅令第三一一號第二條第三項第四條第一項にいわゆる占領目的に有害な行爲に該當するところ、情状により同條第二項をも適用しその所定の懲役刑及び罰金刑の刑期及び金額の範圍内において、被告人を主文の懲役刑及び罰金刑に處し刑法第一八條により罰金不完納の場合は、主文の期間被告人を労役場に留置すべきものとし、主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 齋藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 岩松三郎)

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